2026.05.23 COLUMN #018

業務委託のヨガ講師は「労働者」
東京都労委が認めた組合員性と不当労働行為

フィットネス業界で広く使われている「業務委託契約のインストラクター」。しかし契約形式が業務委託でも、労働組合法上は「労働者」として扱われ、団体交渉拒否や不利益取扱いが不当労働行為になり得ます。新型コロナ後のクラス再編で組合員3名の担当クラスをゼロにした対応を、東京都労働委員会が不当労働行為と認定し、クラス再割当てと報酬相当額の支払を命じた重要な救済命令を解説します。

参考事例

東京都労働委員会 令和5年6月1日命令

令和2年不第80号 不当労働行為救済申立事件

申立日:令和2年9月1日/命令書交付日:令和5年6月1日

対象事業者:大手ヨガ・ピラティススタジオを運営する株式会社(社名は本コラムでは伏せます)

※本件は裁判所の判決ではなく、労働委員会の救済命令です。

事案の概要

対象事業者は、平成16年設立の株式会社で、ヨガ・ピラティス等のスタジオ事業を全国展開し、講師養成のためのスクール事業も運営しています。スタジオの講師の大半は、会社との業務委託契約で各クラスを担当する「業務委託契約講師」でした。

平成27年、会社は既存のヨガプログラムを体系化した新プログラムを開始し、これに伴い有効期間1年・年1回の更新を要する独自の認定資格制度を導入。平成30年10月、平成31年3月以降に新プログラムのクラスを担当する場合は、本件認定資格の取得・更新を必須とする方針(適用拡大)を講師に通知しました。

これに反対する業務委託契約講師らが平成31年4月29日に労働組合を結成。令和元年5月から令和2年3月までの間に6回の団体交渉を行いましたが、合意には至りませんでした。

令和2年4月、新型コロナウイルス感染症の影響で会社は全店舗を休業し、6月から開講クラス数・定員を従前の約半分に制限して営業再開。会社は再開時のクラス再編で、休業開始時点でレギュラークラスを担当していた組合員4名(執行委員長X2、副執行委員長X3、執行委員X4・X5)全員に対し、担当クラスを一切割り当てませんでした

組合は同年9月1日、これらを不当労働行為として東京都労働委員会に救済申立てを行いました。

申立人業務委託契約講師らで構成される労働組合
被申立人大手ヨガ・ピラティススタジオを運営する株式会社
事業者規模令和元年12月末時点で従業員265名・店舗23店舗(コロナ後縮小)
申立日令和2年9月1日
命令書交付日令和5年6月1日
結論一部救済命令

争点

争点1:業務委託契約講師は労働組合法上の「労働者」に当たるか

業務委託契約の講師が、労組法上の「労働者」(同法3条「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」)に該当するかが問われました。労働者性が認められなければ、団体交渉権も不当労働行為救済も使えません。

争点2:担当クラスをゼロにした措置は不当労働行為に当たるか

労組法上の労働者に該当するとして、会社が組合員4名の担当クラスを全て削減してゼロにした対応が、組合員であることや組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い(労組法7条1号)に当たるかが争われました。

労働委員会の判断

RESULT

一部救済命令。業務委託契約講師は労組法上の労働者に該当すると認定。

新プログラム以外のクラス削減については、組合員3名(X2、X3、X5)に対する不当労働行為に該当するとして、クラスの再割当てと、各人が得たであろう報酬相当額の支払を命令。

新プログラムのクラス削減およびX4に対するクラス削減については、認定資格の更新意思がないことに基づく対応であるとして、不当労働行為には当たらないと判断。

判断のポイント①:業務委託契約講師の「労働者性」

労働委員会は、業務委託契約講師の業務実態に即して、以下の6つの要素を総合的に考慮して労組法上の労働者性を判断しました。

  1. 事業組織への組入れ:認定 講師の大半が業務委託契約講師で、会社は長期にわたる労働力を見込み、研修・マニュアル・考課によって講師を管理。業務委託契約講師の労働力はスタジオ事業に不可欠であり、会社はその労働力の恒常的な維持・確保のため、講師を組織に組み入れていたと認定。
  2. 契約内容の一方的・定型的決定:認定 業務委託契約には定型書式が用いられ、講師側で契約締結や更新時に労働条件を変更する余地はなく、報酬基準や増減も会社が考課に基づき決定。
  3. 報酬の労務対価性:認定 報酬は1クラス当たりの基本単位報酬額として規定され、拘束時間に応じた割増や待機報酬の支払があり、業務量・時間に基づいて算出。クラスはマニュアルで統一された形で実施され、労務提供の性質が強い。
  4. 業務の依頼に応ずべき関係:一定程度認定 応ずべき関係にあったとまでは言えないが、実際の運用や講師の認識として、クラス担当の打診や依頼を拒否しづらい状況があった。
  5. 広い意味での指揮監督下の労務提供・時間的場所的拘束:認定 労務提供について詳細な指示が与えられ、評価が報酬の増減に直結するためこれを遵守する必要があり、日時・場所・内容について、クラス前後の対応時間やスタジオ間の移動時間も含め行動が拘束されていた。
  6. 顕著な事業者性の有無:否定 自己の才覚で利得する機会は乏しく、損益の負担もなく、他人労働力の利用もなく、業務に要する設備や交通費等は会社が負担。事業者性は認められない。

これらを総合し、業務委託契約講師は、会社との関係において、労組法上の「労働者」に該当すると認定されました。

判断のポイント②:不当労働行為の認定

労働委員会は、新プログラム関係と、それ以外のクラスの削減を分けて判断しました。

新プログラム(認定資格を要するクラス)の削減 → 不当労働行為に当たらない

会社は、組合結成前の平成30年10月に「新プログラムのクラス担当には認定資格の取得・更新を必須とする」方針を周知済み。組合員は全員、認定資格を更新せず、更新する意思も示していなかったため、組合員であるか否かを問わず方針通り対応したものであり、不利益取扱いには当たらない。

新プログラム以外のクラスの削減 → 不当労働行為に該当

労働委員会は以下の点から不当労働行為意思を認定しました:

これらから、組合員3名に対する異例な対応は、組合の中心的人物に不利益を与えることで組合活動の抑制を図ったものと認定されました。

命令の具体的内容

労働委員会は以下を会社に命じました:

  1. クラスの割当て X2に週1クラス、X3に週5クラス、X5に週2クラスのレギュラークラスを割り当てること。
  2. 報酬相当額の支払 X2に令和2年6月1日以降週1クラス、X5に同日以降週2クラス、X3に同日以降週6クラス(令和3年1月1日以降は週5クラス)を割り当てたものとして取り扱い、上記クラスを割り当てるまでの間、各人が得たであろう報酬相当額を支払うこと。
  3. 文書の交付・掲示および履行報告

【column-007との関連】第7回コラム「管理監督者の落とし穴」は雇用契約上の労務トラブルでしたが、本件は業務委託契約でも労働組合法が適用されるという別アングルです。「契約形式」と「実態」が乖離している場合、法律は実態を重視します。

注意点:ジム経営者・スタジオオーナーが学ぶべきこと

  1. 「業務委託契約だから労組法は関係ない」は誤解 業務委託契約のインストラクター・トレーナーであっても、実態として組織への組入れ・契約の定型性・労務対価性・指揮監督下の労務提供等が認められれば、労働組合法上の労働者に該当します。労働組合からの団体交渉申入れを「業務委託先だから」と拒否すれば、それ自体が不当労働行為(団体交渉拒否)に当たり得ます。
  2. 業務委託契約書の整備だけでは足りない——「実態」が問われる 契約書に「業務委託」と書いていても、本件のように事業組織への組入れ・マニュアルによる統一指導・評価による報酬決定等の実態があれば、労働者性は否定できません。実質的に労働者として扱う以上のリスクを認識して契約・運用を組み立てる必要があります。
  3. クラス減・契約打ち切りには合理的・客観的な基準が必要 本件では、従前の「集客率+貢献度」の評価基準を捨て、独自基準の「集客率の総計」のみで判断したことが不自然と評価されました。クラス再編・契約見直しを行う際は、(a)従前から用いている評価基準を一貫して使う、(b)組合員と非組合員に同じ基準を適用する、(c)個別の判断理由を書面で残す、ことが重要です。
  4. 労使対立期の人事的措置は「タイミング」と「対象」に細心の注意を 団体交渉中や労使対立的状況下で、組合の中心メンバーに集中的な不利益が及ぶと、たとえ別の理由(コロナ等の経営判断)があっても不当労働行為意思が推認されやすくなります。経営判断と組合員への対応が同時期に発生する場合は、文書化・客観化を徹底すべきです。
  5. 「報酬安定型」「急激な変化を避ける」等の方針を打ち出しているなら、組合員にも一貫して適用する 会社が従前打ち出していた方針と、組合員への対応に乖離があったことが、本件で不当労働行為意思を推認する重要な根拠となりました。経営方針を表明する際は、その方針を組合員にも均等に適用できるかを十分検討してください。

まとめ

  1. 業務委託契約でも労組法上の労働者になり得る 判断は6つの要素の総合考慮。実態が伴えば団体交渉応諾義務・不当労働行為禁止が適用されます。
  2. 客観的・一貫した評価基準でクラス再編を行う 従前と異なる基準を急に導入したり、組合員にだけ厳しい基準を適用したりすると、不当労働行為と認定されやすくなります。
  3. 労使対立期の人事的措置は文書化・客観化を徹底 タイミング・対象・理由について、後から検証されても合理性を説明できる記録を残しましょう。

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※ 本コラムは、東京都労働委員会の救済命令書に基づき、一般的な情報提供を目的とするものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。