6歳児がプールで溺死。
園長に有罪判決——監視体制の「過失」とは何か
学童保育のプール活動で、6歳の児童が溺死した。園長は業務上過失致死罪で起訴され、禁錮1年6月(執行猶予4年)の有罪判決を受けました。これは民事の損害賠償ではなく、刑事罰です。フィットネス施設やスポーツ教室の運営者にとって、安全管理の不備が「犯罪」として問われるという現実を突きつける判例を解説します。
大津地裁 刑事部 令和7年1月27日判決
令和6年(わ)第401号 業務上過失致死被告事件
裁判官:西脇真由子
求刑:禁錮1年6月 → 判決:禁錮1年6月(執行猶予4年)
事案の概要
被告人は、滋賀県長浜市内の学童保育所の園長でした。2023年夏、園長は小学1年生から6年生までの児童46名を引率し、施設内のプールで遊泳させました。監視員は園長を含む4名でした。
プールは、水深約0.6mの小プールと水深約1.1〜1.3mの大プールが一体となった構造で、ステンレス製の柵で区切られていましたが、容易に柵を乗り越えて移動できる構造でした。また、プール施設側の監視員は配置されておらず、監視は学童保育所の職員のみが行っていました。
被害者は当時6歳の小学1年生で、身長は約126cm。大プールの水深(最大1.3m)に満たず、遊泳能力も乏しい児童でした。
園長は、児童の身長や遊泳能力を事前に把握せず、班分けや遊泳区域の指定を行わないまま、40名以上の児童を無秩序に遊泳させました。監視体制は、4名中2名を児童と共に入水させ、1名を特定の女児に対応させるという状態で、園長自身も料金支払い等のために約7分間プールから離れるなどしていました。
被害児童は大プールで溺水しましたが、誰も気づかないまま心肺停止状態に陥り、搬送先の病院で溺死が確認されました。
| 被告人 | 学童保育所の園長 |
|---|---|
| 被害者 | 6歳男児(小学1年生、身長約126cm、遊泳能力に乏しい) |
| プール構造 | 小プール(水深約0.6m)+大プール(水深約1.1〜1.3m)が一体。柵で区切られているが容易に乗り越え可能 |
| 参加児童 | 小学1〜6年生 計46名 |
| 監視員 | 園長を含む4名(施設側の監視員なし) |
| 罪名 | 業務上過失致死罪(刑法211条) |
| 判決 | 禁錮1年6月(執行猶予4年) |
裁判所が認定した過失の内容
これは民事の損害賠償事件ではなく、刑事事件です。
安全管理の不備が「業務上過失致死罪」として刑事罰の対象とされました。有罪判決が確定すれば前科となります。
- 児童の身長・遊泳能力を把握しなかった 園長は、参加児童の身長や遊泳能力を事前に把握していませんでした。大プールの水深が最大1.3mであるのに対し、被害児童の身長は126cmで水深に満たず、遊泳能力も乏しい状態でした。裁判所は、こうした児童が大プールに入れば溺水の危険があることは容易に予見できたと認定しました。
- 身長・能力に応じた班分けと遊泳区域の指定を行わなかった 裁判所が認定した注意義務の核心は、「参加児童の身長や遊泳能力を把握し、これに応じた班分け及び遊泳区域の指定を行うなどして、身長が大プールの水深に満たず遊泳能力の乏しい児童らが大プールに立ち入るのを厳に禁止」することでした。園長はこれを一切行いませんでした。
- 実効的な監視体制を構築しなかった 4名の監視員のうち2名は児童と一緒にプールに入水し、1名は特定の女児への対応に当たり、園長自身は料金支払いのためにプールから約7分間離れていました。裁判所は「実効的な監視体制を構築しないまま、被告人自身も慎重な監視を怠り」と認定しました。
- 従前の増員要請を無視していた 園長は、他の職員から監視員の増員を要請されていたにもかかわらず、十分な監視体制を構築できる状況にないことを認識しながら改善しませんでした。
【量刑の理由】裁判所は「被告人の過失の程度は大きい」と評価。被害児童の両親が「命を甘く見ていたとしか思えず怒りしかない」「一生許すことはなく、恨んで今後も生きていく」と述べたことも記載しています。一方、犯行を認め反省していること、職を辞していること、保険による賠償の可能性があること等を考慮し、刑の執行を猶予しました。
注意点:ジム経営者・トレーナーが学ぶべきこと
- 安全管理の不備は「犯罪」になり得る 本件は民事の損害賠償ではなく、刑事事件です。業務上過失致死罪は最長5年の懲役または禁錮が科される重大犯罪です。ジムやスポーツ教室の運営者が安全管理を怠り、利用者が死亡した場合、刑事責任を問われる可能性があります。
- プール・水中プログラムでは「利用者の能力に応じたゾーニング」が不可欠 本件で裁判所が求めた注意義務は、「身長・遊泳能力の把握」→「班分け・遊泳区域の指定」→「不適切な区域への立入り禁止」→「常時監視」という一連のプロセスです。ジムのプールやスイミングプログラムでも、利用者の能力を事前に確認し、能力に応じたコース・レーン分けを行うことが求められます。
- 「監視員がいる」だけでは足りない——実効的な監視体制の構築が必要 本件では監視員4名が配置されていましたが、実際に監視に集中できる体制になっていませんでした。監視員の人数だけでなく、監視位置の決定、監視に専念させる体制(他の業務と兼務させない)、定期的な巡回ルールの策定など、実効性のある監視体制が不可欠です。
- 職員からの安全上の進言は真摯に受け止める 園長は従前から職員に監視員の増員を要請されていました。現場の声を無視して改善しなかったことが、過失の認定を重くしています。安全管理に関する現場からの提案や懸念は、記録に残し、速やかに検討・対応すべきです。
まとめ
- 安全管理の不備は刑事責任を生じさせる 業務上過失致死罪は、損害賠償とは別に刑事罰が科される重大犯罪です。
- 利用者の能力把握→班分け→区域指定→常時監視のプロセスを徹底する プールに限らず、利用者の身体能力にリスクが左右されるすべてのプログラムに共通する原則です。
- 「人数」ではなく「実効性」のある監視体制を構築する 監視員を配置しても、監視に専念できる体制でなければ意味がありません。
※ 本コラムは、裁判例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。