2026.04.27 COLUMN #014

「ヘルスジム」は商標登録できない
ジム名のネーミングと商標法の落とし穴

「ヘルスジム」というジム名を商標登録しようとしたら、拒絶された——。知的財産高等裁判所は、「ヘルスジム」は「健康のためのトレーニング施設」という役務の質を表すにすぎず、商標として登録できないと判断しました。フィットネス業界でよく使われるネーミングには、商標登録できないものが少なくありません。ジム名・サービス名の付け方で知っておくべきルールを解説します。

参考判例

知的財産高裁 第1部 令和8年1月27日判決

令和7年(行ケ)第10085号 審決取消請求事件

裁判長裁判官:増田稔

出願人:株式会社フィジテック(代理人弁理士:高橋孝仁)

事案の概要

原告は、「ヘルスジム」の文字を標準文字で表した商標について、第41類(トレーニングジムの提供、スポーツの興行の企画・運営又は開催等)を指定役務として商標登録出願を行いました。

特許庁は、本願商標が商標法3条1項3号(役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)及び同法4条1項16号(役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標)に該当するとして拒絶査定を下しました。

原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、特許庁は審判請求不成立の審決を行い、原告はその取消しを求めて知的財産高等裁判所に提訴しました。

出願商標「ヘルスジム」(標準文字)
指定役務第41類(トレーニングジムの提供、スポーツの興行の企画・運営又は開催等)
出願人株式会社フィジテック
拒絶理由商標法3条1項3号(記述的商標)、同法4条1項16号(品質誤認)

争点

争点1:「ヘルスジム」は役務の質を表示する記述的商標(3条1項3号)に当たるか

原告は、「ヘルスジム」は一体の造語であり、「ヘルス」と「ジム」に分断して意味を把握すべきではなく、特定の意味が生じない以上、自他識別力(他のジムと区別する力)を有すると主張しました。また、「ヘルスジム」という語の実際の使用例は約40年間でわずか19件程度にすぎず、一般的・恒常的な取引の実情として認定するには不十分であるとも主張しました。

争点2:役務の質の誤認を生ずるおそれ(4条1項16号)があるか

仮に「ヘルスジム」が「健康のためのトレーニング施設」を意味するなら、「健康のためのジム」と関連しない役務に使用した場合に、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるかが争点となりました。

裁判所の判断

RESULT

請求棄却。「ヘルスジム」は商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることができない。

裁判所が認定した理由

  1. 「ヘルス」「ジム」はそれぞれ広く用いられるなじみの深い語 裁判所は、「ヘルス」は「健康」、「ジム」は「室内トレーニング施設」を意味する語として辞書に掲載され、いずれも我が国で広く使われていると認定。「ヘルス」は「ヘルスセンター」「ヘルスケア」等のように後に名詞を組み合わせて使われ、「ジム」は「フィットネスジム」「パーソナルジム」「リハビリジム」等のように前に名詞を組み合わせて使われる用法が慣用されていると認定しました。
  2. 「ヘルスジム」から「健康のための屋内トレーニング施設」の意味を容易に想起できる 上記の各語の意味と使用慣行から、一般消費者は「ヘルスジム」の文字列から「健康のための屋内トレーニング施設」の意味合いを容易に想起するとしました。
  3. 取引の実情でも「ヘルスジム」は施設の種類を示す語として使用されている 新聞記事、地方公共団体の広報紙、不動産開発会社や旅行代理店のウェブサイト、店舗検索サイト等において、「ヘルスジム」が「健康のためのトレーニング施設」を意味する用語として特段の説明なく相当程度使用されていると認定。使用例が多数とまではいえなくても、一般消費者向けの説明として成り立っている実情が裏付けとなりました。
  4. 原告の「造語」「抽象的意味にすぎない」という主張を退けた 原告は「ヘルスジム」は一体の造語であると主張しましたが、裁判所は構成する各語がなじみの深い語であり、組み合わせの用法も慣用されていることから、全体として役務の質を表示するものにすぎないと判断しました。

【column-008との関連】第8回コラム「コンビニ○○」事件でも、「コンビニフィットネス」「コンビニジム」が説明的な名称であることが問題になりました。本件は商標登録の場面ですが、「説明的な名前は法的保護に限界がある」という教訓は共通しています。

注意点:ジム経営者・トレーナーが学ぶべきこと

  1. 「○○ジム」「○○フィットネス」のような名前は商標登録できないリスクが高い 「ヘルスジム」「パーソナルジム」「フィットネスクラブ」「24時間ジム」のように、サービスの特徴+業態名を組み合わせた名前は、役務の質を表す「記述的商標」として登録が拒絶される可能性が高くなります。自社のブランドを法的に守りたいなら、こうした一般的・説明的な名前は避けるべきです。
  2. 商標登録できるのは「独自性のある名前」 商標として登録するには、他の事業者と区別できる「識別力」が必要です。造語(chocoZAP、RIZAP等)、既存の語の意外な組み合わせ、ロゴやデザインを加えた商標は、登録できる可能性が高くなります。ジム名を決める段階で、商標登録の可否を意識したネーミングをすることが重要です。
  3. 出願前に商標調査を行う 既に他者の商標が登録されている名前を使えば侵害になり、逆に記述的な名前では登録が拒絶されます。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で先行商標の有無を調べ、登録可能性に不安がある場合は弁理士や弁護士に相談しましょう。

まとめ

  1. 「ヘルスジム」は「健康のためのトレーニング施設」を意味する記述的商標として登録拒絶 一般消費者がサービスの質を表す語と認識する名前は、特定の事業者が独占することは認められません。
  2. ブランドを守りたいなら、独自性の高いネーミングが不可欠 説明的でない、他社と混同されにくい名前を選ぶことが、長期的なブランド保護の出発点です。
  3. ジム名を決める段階で商標調査と専門家への相談を 出願後に拒絶されてから名前を変えるのは大きなコストです。最初から登録可能性を意識しましょう。

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※ 本コラムは、裁判例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。