「今日だけ割引」で契約させられた?
パーソナルジム勧誘と中途解約の法的問題
「今日契約しないとキャンペーンが適用されない」——その勧誘、法的に問題がありませんか?約30万円のパーソナルトレーニング契約で腰を負傷し、解約を申し出たら返金を一切拒否された紛争事例を解説します。特定商取引法・景品表示法・消費者契約法の3つの論点から、ジム経営者が今すぐ見直すべきポイントをお伝えします。
東京都消費者被害救済委員会 令和5年9月7日報告
パーソナルトレーニング契約の中途解約に係る紛争
※本件は行政ADR(あっせん)による解決事例であり、裁判所の判決ではありません。
事案の概要
20代女性が、「無料で体組成計測ができる」というインターネット広告を見て、パーソナルトレーニングジムを訪問。応対した従業員から「48回の半年プランなら絶対効果が出る」「今日じゃないと入会金無料や10%オフは適用されない」などと勧誘され、6ヶ月間・30分×48回のプラン(約30万円)を契約し、クレジットカードで決済しました。
3ヶ月後、トレーナーの指導中に腰を痛めて5日間入院。まだ14回しかトレーニングを受けていませんでしたが、医師から今後ジムに通うのは控えるよう言われたため、解約と返金を申し出ました。
ジム側は「ジムの求める内容を記載した診断書が提出されなければ返金できない」「一度購入したチケット料金は返金できないと契約時の確認書にある」として、一切の返金を拒否しました。
| 申立人 | 20代女性 |
|---|---|
| 相手方 | パーソナルトレーニングジム運営事業者 |
| 契約内容 | 6ヶ月間・30分×48回のパーソナルトレーニング |
| 契約金額 | 約30万円 |
| 利用回数 | 48回中14回 |
| 解約理由 | トレーニング中の腰の負傷(5日間入院) |
争点
争点1:パーソナルトレーニング契約は「特定継続的役務提供」に該当するか
特定商取引法が定める「特定継続的役務提供」(エステ、美容医療、語学教室等)に該当すれば、中途解約権や解約料の上限が法定されます。パーソナルトレーニングがこれに含まれるかが論点となりました。
争点2:「返金不可」条項は消費者契約法上有効か
確認書に「購入後の返金はできない」旨のチェック項目があり、申立人は署名していました。この条項が消費者契約法9条1項1号(平均的損害を超える部分は無効)に該当するかが争われました。
争点3:「今日だけ割引」等の勧誘・広告表示に問題はないか
「今日じゃないと入会金無料や10%オフは適用されない」という勧誘、「月々○○円~」「プロのトレーナー」等の広告表示が景品表示法上の不当表示に当たらないかが検討されました。
委員会の判断
あっせん解決。未提供分の役務対価の返還で合意成立。
委員会は、契約解除を前提に、支払済み金額から提供済み役務の対価を差し引いた差額の返還を求めるあっせん案を提示し、双方が合意しました。
委員会が認定した法的問題点
- 本件契約は準委任契約であり、いつでも解除できる 委員会は、パーソナルトレーニングという役務提供契約は民法上の準委任契約に分類され、どちらの当事者からでもいつでも解除できると認定しました。申立人の解約申出により、契約は有効に解除されたと判断されました。
- 「返金不可」条項は消費者契約法により制限される 確認書の「購入後の返金はできない」条項は契約内容に取り込まれたとしても、消費者契約法9条1項1号が適用されます。事業者に生ずべき平均的な損害を超える金額については、申立人に返金しなければならないとされました。
- 広告表示に景品表示法上の問題がある 「月々○○円~」「初月0円」は有利誤認表示、「プロのトレーナー」は優良誤認表示に該当する可能性があると指摘されました。
- 事業者は安全配慮義務を負う 準委任契約の受任者として善管注意義務を負うとともに、契約上の付随義務ないし信義則上の安全配慮義務も負っていると認定されました。
注目:委員会は行政に対し、パーソナルトレーニング契約を特定商取引法の「特定継続的役務提供」に追加することを求めています。実現すれば、中途解約権・解約料上限・書面交付義務等が法定され、業界全体のルールが大きく変わります。
注意点:ジム経営者・トレーナーが学ぶべきこと
- 「返金不可」条項だけでは解約を拒めない 契約書に「返金不可」と書いてあっても、消費者契約法により事業者の平均的損害を超える部分は無効となります。中途解約の自由と合理的な清算ルールを契約条項に盛り込んでおくことが、逆にトラブル防止につながります。
- 「今日だけ割引」勧誘はリスクが高い 「今日契約しないとキャンペーンが適用されない」という勧誘は、消費者に冷静な判断をさせない手法として問題視されています。常態的にこうした勧誘を行っていれば、景品表示法上の有利誤認表示に該当するリスクがあります。実際に期間限定であることを客観的に示せない割引は避けるべきです。
- 「特定継続的役務提供」への追加指定に備える 委員会は行政に対し、パーソナルトレーニングを特定継続的役務提供に追加することを求めています。もし実現すれば、中途解約権の法定、解約料の上限規制、契約書面の交付義務等が義務化されます。今のうちから、中途解約に対応できる契約書・規約の整備を進めておくべきです。
まとめ
- 「返金不可」条項は万能ではない 消費者契約法により、平均的損害を超える部分は無効。合理的な清算ルールの整備こそが最善の防御策です。
- 勧誘・広告の適法性を点検する 「今日だけ」「プロのトレーナー」等の表示は、景品表示法違反のリスクを伴います。
- 法規制の強化に先手を打つ 特定継続的役務提供への追加指定が議論されています。規制が入ってからでは遅いので、今のうちに契約書と運用を見直しましょう。
※ 本コラムは、東京都消費者被害救済委員会の紛争事例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。