2026.03.28 COLUMN #010

取引終了後もトレーナーの写真を使い続けたら
パブリシティ権侵害が認められた事例

フィットネスウェアの販売サイトに、マスタートレーナーの画像を取引終了後も掲載し続けたらどうなるか。トレーナーの「顔」や「画像」の商業的価値は、法律上どのように保護されるのか。パブリシティ権侵害で110万円の損害賠償が認容された判例を解説します。

参考判例

大阪高裁 平成29年11月16日判決

平成29年(ネ)第1147号 損害賠償請求控訴事件

原審:大阪地裁 平成27年(ワ)第6459号

フィットネスプログラム「Ritmix」のマスタートレーナー画像の無断掲載が争われた事案

事案の概要

原告Xは、フィットネスプログラム「Ritmix」を中国・台湾地域で運営する会社です。X代表者の配偶者であるP1は、同地域を担当するRitmixのマスタートレーナーでした。被告Yは、フィットネス関係の衣料品を製造販売する会社です。

平成26年12月以降、XとYはフィットネスウェアの共同製造販売について協議を進め、YはP1の写真撮影を行い、Yのウェアを着用したP1の画像をホームページ等に掲載しました。また、アルゼンチンでRitmixのDVD撮影が行われ、Yが製作したウェアが採用されました。

ところが平成27年3月、Yは突然Xに対し「全ての契約締結を見送る」旨の通知を送付し、協議・取引を終了させました。しかしYは、その後もP1の画像をホームページ等から削除せず掲載し続けました。

Xは、RitmixマスタートレーナーP1のパブリシティ権について独占的な利用許諾を受けているとして、Yに対しパブリシティ権侵害等による損害賠償を請求しました。

原告Ritmix運営会社(マスタートレーナーP1のパブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者)
被告フィットネスウェア製造販売会社
問題の行為取引終了後もトレーナーP1の画像をウェア販売サイトに掲載し続けた
法的根拠パブリシティ権侵害(不法行為・民法709条)

争点

争点1:パブリシティ権の独占的利用許諾は有効か

パブリシティ権は人格権に由来する一身専属的な権利です。被告側は、パブリシティ権の利用許諾契約自体の有効性を争いました。

争点2:取引終了後の画像掲載がパブリシティ権侵害に当たるか

協議中の画像掲載には原告の承諾がありましたが、取引終了通知の送付後もなお画像を掲載し続けたことが、パブリシティ権侵害を構成するかが問われました。

裁判所の判断

RESULT

パブリシティ権侵害を認定。損害賠償として110万円を認容。

裁判所が認定した理由

  1. パブリシティ権の独占的利用許諾契約は有効と判断された 裁判所は、パブリシティ権は人格権に由来し一身専属・譲渡不可であるものの、その商業的価値を抽出・純化させた利用許諾契約は不合理ではなく、公序良俗違反にも当たらないと判断しました。
  2. 取引終了通知により、画像掲載の承諾も当然に撤回されたと認定 協議が継続している間はP1の画像掲載についてXの承諾があったと認められるものの、Y自身が取引終了通知を送付して協議を終了させた以上、画像掲載の承諾も当然に撤回されたと認定されました。
  3. 取引終了後の掲載継続は「広告としての使用」に当たると評価 Yが取引終了後もホームページ等からP1の画像を削除せず掲載し続けたことは、P1の肖像等を広告として使用したと評価でき、P1のパブリシティ権に係るXの独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められました。

ポイント:パブリシティ権は、芸能人だけでなくフィットネスインストラクターやトレーナーにも認められ得る権利です。取引・契約関係が終了した後は、画像掲載の承諾も当然に失われるため、速やかに削除する必要があります。

注意点:ジム経営者・トレーナーが学ぶべきこと

  1. トレーナーの画像は「契約関係がある間だけ」使用できる 業務委託やフランチャイズの関係が終了した後も、トレーナーやインストラクターの画像をホームページ・SNS・チラシ等に掲載し続けることは、パブリシティ権侵害として損害賠償を請求されるリスクがあります。退職・契約終了時には、速やかに画像を削除する運用を徹底しましょう。
  2. 画像使用の範囲・期間を契約書で明確にしておく トレーナーの写真や動画を広告に使用する場合、使用目的・使用期間・契約終了後の取扱いを契約書に明記しておくことが不可欠です。「契約終了後30日以内に全て削除する」等の具体的な条項を入れておくと、トラブルを未然に防げます。
  3. トレーナー側も自分の「パブリシティ権」を意識する フィットネス業界で一定の知名度を持つインストラクターやトレーナーは、自身の画像・映像の商業的価値を認識し、無断使用に対して権利主張できることを知っておくべきです。特に、独立後も元所属先のサイトに画像が残っているケースは少なくありません。

まとめ

  1. 取引終了後のトレーナー画像の掲載継続はパブリシティ権侵害になり得る 取引終了通知を送った側が画像を削除しなかったことで、不法行為が成立しました。
  2. 画像使用条件は契約書で明文化する 使用目的・期間・終了後の削除義務を具体的に定めることが、双方のリスクを下げます。
  3. パブリシティ権はフィットネス業界でも重要な権利 トレーナーの「顔」や「画像」は、法的に保護される商業的価値を持つ財産です。

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※ 本コラムは、裁判例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。