「店長だから残業代なし」は通用しない?
管理監督者の落とし穴
「うちのマネージャーは管理職だから、残業代は払わなくていい」——そう思っていませんか?この認識が原因で、数百万円単位の未払い残業代を請求されるケースがフィットネス業界でも現実に起きています。全国チェーンのスポーツクラブ支店長が「管理監督者」にあたらないとされた裁判例を解説します。
東京高裁 平成30年11月22日判決
コナミスポーツクラブ事件(一審:横浜地裁川崎支部)
全国展開のスポーツクラブ(従業員約1万3,000人)の支店長(GM職)が管理監督者にあたるかが争われた事案
事案の概要
全国チェーンのスポーツクラブで約7年間にわたり支店長(GM職)を務めていた従業員が、「管理監督者」として残業代・休日手当を一切支払われていなかったことを不服として、会社に未払い残業代の支払いを求めた事案です。
会社側は、GM職を「管理監督の地位にある者」として扱い、残業代・休日手当を一切支払っていませんでした。
支店長の実態
| 役職手当 | 月額5万円のみ |
|---|---|
| 残業時間 | 月平均41時間超 |
| 採用・解雇権限 | 人事部長の決裁が必要 |
| 営業時間の変更 | 独自判断不可 |
| 出退勤管理 | タイムカード打刻あり(一般社員と同様) |
| 上位からの指揮命令 | エリアマネージャーを通じて日常的に受けていた |
裁判所の判断
支店長は「管理監督者」にあたらないと判断。
未払い残業代の支払いに加え、付加金(ペナルティ)として約90万円の支払いを命じました。
「管理監督者」の3つの判断基準
裁判所は、管理監督者かどうかを次の3つの視点で判断します。
- 経営者と一体的な立場にあるほどの権限・責任があるか 単に「店長」「マネージャー」という肩書きがあるだけでは不十分です。本件では、アルバイトの採用・解雇に本部の承認が必要で、サービス内容や営業時間も独自に決定できず、上位から日常的に指示を受けていました。
- 自分の裁量で労働時間を管理できるか 管理監督者は「労働時間の規制になじまない働き方」をしている必要があります。本件では、タイムカードで出退勤を記録し、月41時間超の残業が常態化していました。
- 管理監督者にふさわしい待遇を受けているか 割増賃金が支払われない分、それを上回る相応の処遇が必要です。本件では、役職手当がわずか月5万円で、残業代を含めた賃金総額が一般社員と大差ありませんでした。
フィットネス業界が特に注意すべきポイント
本判決は「多店舗展開する大型チェーンでは、店舗独自の工夫をする余地は少なく、経営方針に関与する機会も乏しいため、管理監督者として認められる余地は少ない」と指摘しています。
つまり、本部がメニュー・価格・サービス内容を決める多店舗チェーン型のジム・スタジオでは、現場の店長・マネージャーが管理監督者に認定されるケースは極めて稀と考えてください。
パーソナルジムや複数店舗展開のスタジオを経営している方にとって、他人事ではない判例です。
あなたのジムは大丈夫?チェックリスト
以下のうち一つでも当てはまれば、未払い残業代リスクがあります。
- スタジオマネージャーや店長に残業代を支払っていない
- 役職手当だけで「管理職扱い」にしている
- マネージャーもタイムカード・勤怠システムで管理している
- プログラム内容・料金・営業時間は本部が決定している
- マネージャーのアルバイト採用に本部承認が必要
リスクを放置すると——
未払い残業代は、過去2〜3年分(場合によっては5年分)さかのぼって請求されます。月30時間の残業が未払いの社員が3人いた場合、3年間で数百万円規模の請求になることも珍しくありません。さらに付加金が加わると、実質2倍の支払いが生じる可能性があります。
まとめ
- 「肩書き」ではなく「実態」で判断される 雇用契約書に「管理職」と書いてあっても、実態が伴わなければ管理監督者とは認められません。
- 多店舗チェーンのマネージャーはハードルが特に高い 本部が方針を決め、現場が実行するだけの体制では、管理監督者性が認められる余地は少ないとされています。
- 早めの見直しがリスクを防ぐ 問題が発覚してからでは過去数年分+ペナルティで大きな金額になり得ます。今のうちに労務体制を点検しましょう。
※ 本コラムは、裁判例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では結論が異なる場合があります。具体的なご相談はBenFitまでお問い合わせください。