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2025年2月22日

「返金不可」の規約は本当に有効?
パーソナルトレーニング中途解約トラブルから学ぶ

「一度購入したチケットは返金できません」――このような規約を設けているパーソナルジムは少なくありません。

しかし、この規約は本当に有効なのでしょうか?今回は、中途解約をめぐるトラブルで約21万円の返金が認められた事例を解説します。

事案の概要

📋 参考事例
東京都消費者被害救済委員会 令和5年あっせん事例
パーソナルトレーニング契約の中途解約に係る紛争

20代女性の会員が、SNS広告を見てパーソナルジムの無料カウンセリングに訪れました。「48回の半年プランなら絶対効果が出る」「今日じゃないと入会金無料や10%オフは適用されない」などと勧誘され、6か月間・48回・約30万円のプランを契約しました。

ところが、14回目のトレーニング中に腰を痛め、翌日には救急搬送されて5日間入院する事態に。医師から「今後ジムに通うのは控えた方がいい」と言われたため、解約と返金を申し出ました。

しかしジム側は、確認書の「一度購入した回数チケット料金は返金できない」という条項を根拠に、返金を拒否。会員は消費生活センターに相談し、最終的に東京都消費者被害救済委員会に申し立てました。

争点

争点1:「返金不可」条項の有効性

確認書に記載された「購入後の返金はできない」という条項は有効か。消費者契約法に違反しないか。

争点2:安全配慮義務違反の有無

トレーニング中の怪我について、ジム側に安全配慮義務違反があったか。

結論

あっせん結果

210,800円の返金で和解成立

契約金額297,600円 − 提供済み役務86,800円(14回分)

委員会は、「返金不可」条項には消費者契約法9条1項1号が適用されると判断。未提供の役務に対応する代金については返金すべきとしました。

委員会が指摘したポイント

1「返金不可」条項の限界

「返金不可」条項は、実質的には損害賠償額の予定・違約金の定めと同様の性質を持つ。消費者契約法9条1項1号により、「平均的な損害」を超える部分は無効となる。本件では、特定継続的役務提供(エステ等)に準じて清算ルールを適用し、未消化分の返金を認めた。

2安全配慮義務の問題

会員は腰痛の既往症をカウンセリング時に伝えていたにもかかわらず、担当トレーナーはその情報を把握していなかった。会員が「無理です」と拒んでもバーベルトレーニングを続けさせ、腰を痛めた後もトレーニングを継続させた。委員会は、安全配慮義務を尽くしたとはいい難いと指摘。

3顧客情報の共有不備

トレーナーが毎回異なり、顧客の健康情報(既往症、前回のトレーニング内容等)が適切に共有されていなかった。カルテには「腰痛経験有」と記載があったが、当日の担当トレーナーには伝わっていなかった。

4中途解約への対応

ジム側の内部資料には「解約申し出があった場合は引き止め対応を最大限する」「来店を促し、再度クロージングを行う」と記載されていた。消費者の解約意思を尊重しない対応姿勢も問題視された。

注意点:ジム経営者が学ぶべきこと

⚠️ 「返金不可」規約は万能ではない

消費者契約法により、「平均的な損害」を超える部分は無効となります。未提供の役務については、返金義務が生じる可能性があることを理解しておく必要があります。

1. 中途解約・清算ルールを明確にする

パーソナルトレーニング契約は準委任契約であり、消費者からの中途解約は原則として認められます。合理的な清算ルール(提供済み役務の対価+妥当な解約手数料)を規約に明記しましょう。

2. 顧客の健康情報を確実に共有する

既往症や体調の情報は、カルテに記載するだけでなく、担当トレーナーが毎回確認できる仕組みを整備しましょう。トレーナー間の引き継ぎ不備は、安全配慮義務違反の根拠になりえます。

3. 「無理です」という声を軽視しない

会員が痛みや不安を訴えた場合は、トレーニングを中止し、必要に応じて医療機関の受診を勧めましょう。「大丈夫、補助するから」と続けさせた結果の怪我は、ジム側の責任が重くなります。

4. 解約申し出には誠実に対応する

解約を申し出た会員を「引き止める」「来店させてクロージングする」という対応は、消費者トラブルを悪化させます。解約意思が明確な場合は、速やかに清算手続きを進めましょう。

委員会からの提言(抜粋)

本事例で委員会は、事業者に対して以下の点を求めています。

また、行政に対しては、パーソナルトレーニングを特定商取引法の「特定継続的役務提供」に追加することを求めています。現在、エステや語学教室は規制対象ですが、パーソナルトレーニングは対象外となっています。

「返金不可」の規約があっても、
未提供の役務については返金義務が生じうる。
安全配慮義務と合理的な清算ルールの整備が重要です。

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まずは話してみる

※ 本コラムは、東京都消費者被害救済委員会の公表資料をもとに一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では、事実関係や証拠の内容等により結論が異なる場合があります。具体的な法的問題については、必ず弁護士にご相談ください。