事案の概要
損害賠償請求事件
県立高校の野球部員(当時17歳)が、部活動の打撃練習中に打撃投手を務めていたところ、打者が打ち返した硬球が右側頭部に直撃。外傷性くも膜下出血、脳挫傷、右側感音性難聴・内耳機能障害等の重傷を負った事案です。
被害者は、部活動顧問の安全配慮義務違反を主張し、県に対し国家賠償法1条1項に基づき約2,492万円の損害賠償を請求しました。
争点
争点1:顧問教諭の安全配慮義務違反の有無
打撃練習時に投手用ヘッドギアを着用させなかったことが、安全配慮義務違反に当たるか。
争点2:過失相殺の適否
被害者がL字ネットの適切な位置で投球しなかったことを理由に、過失相殺すべきか。
結論
約2,261万円の損害賠償を認容
過失相殺は否定
裁判所は、顧問教諭の安全配慮義務違反を認め、過失相殺も否定しました。
理由
- 高野連(日本高等学校野球連盟)は、打撃練習時に投手用ヘッドギアの着用を義務付けている
- 年に一度教諭に配布される「指導者必携」にもその旨が記載され周知されている
- しかし、顧問教諭はヘッドギア着用義務があることを知らず、学校には投手用ヘッドギアが存在しなかった
- 本件の打撃練習は、通常の投手−打者間の距離(18.44m)より短い約15mで行われており、打球を回避する時間が極めて短かった
以上から、顧問教諭には投手用ヘッドギアを着用させるべき義務があったにもかかわらず、これを怠った安全配慮義務違反があると認定されました。
被告(県)は、「被害者がL字ネットの適切な位置で投球しなかったことが事故原因である」として過失相殺を主張しました。
しかし、裁判所は以下の理由から過失相殺を否定しました。
- ヘッドギアを着用していれば、本件事故は防げた可能性が高い
- 打球のスピードと距離からすると、打撃投手が打球を完全に回避するのは困難
- 高校生である被害者が部活動中に注意力が散漫になることは通常予想される範囲内
注意点:ジム経営者・トレーナーが学ぶべきこと
本件は高校の部活動の事例ですが、民間のジムやスポーツ施設にも通じる重要な教訓があります。
本件では、高野連がヘッドギア着用を義務付けていたにもかかわらず、顧問教諭がそのルールを知らなかったことが問題となりました。フィットネス業界でも、業界団体のガイドラインや安全基準を把握し、遵守することが重要です。
「これまで事故がなかったから大丈夫」という考えは危険です。本件でも、事故が起きるまでヘッドギアなしで練習が行われていました。事故が起きてからでは遅いのです。
被告は「被害者が適切な位置で投球しなかった」と主張しましたが、裁判所は過失相殺を認めませんでした。利用者のミスや不注意があっても、施設側の安全配慮義務違反があれば責任を免れません。
安全対策は「事故が起きる前」に整備することが大切です。
※ 本コラムは、裁判例の紹介を目的とした一般的な情報提供であり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案では、事実関係や証拠の内容等により結論が異なる場合があります。具体的な法的問題については、必ず弁護士にご相談ください。